サークル上の両足リーン
ひと言で言うと
円の上に両足で立ったまま、体ごと内側へ倒す練習です。傾いた分だけ曲がる、という対応を、転ぶ心配の少ない形で体に入れます。
正しくやる
最初に断っておくと、「サークル上の両足リーン」という名前の公式ドリルはありません。このサイトの呼び方です。ただし中身は、各国の入門カリキュラムに公式課題としてちゃんとあります。どこにどうあるかは、順に示します。
目的
リーンとエッジの深さの記事で書いたとおり、エッジの深さを作るのはリーンです。米国連盟の評価規定は、深さとは弧の鋭さのことで、「体のリーンと、氷に乗るときのブレードの角度」が作ると定義しています。ところが、片足でエッジに乗りながら傾きの練習もするのは、初めての人には荷物が多すぎます。バランスを取るだけで精一杯になり、コーチのJoan Orvisが挙げるフォアエッジの失敗リストの6番、「エッジへの体のリーンが足りない」がそのまま起きます。このドリルは荷物をひとつ減らします。両足で立ってバランスの心配を軽くし、傾くとカーブが生まれる、という一点だけを取り出して練習します。
やり方
リンクに円が描かれていれば借ります(ホッケー用のサークルなど)。なければ目印をいくつか置いて、円のつもりで回ります。
- 円に沿って前へ滑り、グライドできる速さになったら、両足の間隔を肩幅以下にして乗る
- 上体はまっすぐのまま、体全体を円の中心へ向けて倒す。足首だけ、腰だけ、にしない
- 軌道が円から外れたら、傾きの量で直す。外へ膨らむならもう少し倒す。内へ切れ込むなら少し起こす
- 反対回りも同じだけやる
「肩幅以下」はCanSkate(Skate Canadaの入門プログラム)のサークル課題の文言から、円の大きさは同じ課題の基準「体格と力に合わせる」から取りました。慣れてきたら、米国のLearn to Skate USAが幼児クラス(Snowplow Sam 3)に置いている「Curves」の形へ進みます。課題文は「体のリーンで氷の上をカーブする。グライドできる速さが出たらS字を5回」。円を離れて、傾け替えでS字を描きます。
よくある失敗
3つとも、倒れているつもりで実は倒れていない形です。
腰から折る。Kate Charbonneauのエッジクラスには、上体を傾けて内側の手で氷に触れにいくドリルがあります。その紹介ページが挙げる鍵はひとつだけ。横へ手を伸ばしてリーンを作ること、腰から前へ折って氷に手を伸ばしにいかないこと。お辞儀はリーンではありません。
エッジだけ倒す。日本語の愛好家サイトKunadonicの中級者篇の言い方を借りると、「無理にエッジを傾けるのではなく、軸そのものを傾けることで、結果として片方のエッジに乗る」。足首から下だけひねって、上体が真上に残っている形は逆です。
まっすぐ立ったまま。Orvisのレッスン紹介ページには、エッジの練習でまっすぐ立ったままの子が多い、それではエッジに乗れているはずがない、という観察が載っています。怖くて傾けないまま、円を目でなぞるだけになっている形です。

できたと判定する基準
このドリル自体の合格ラインを書いた文書はないので、すぐ隣にある公式課題の基準を借ります。CanSkateのStage 3に「カーブ上の両足→片足グライド」という課題があります。カーブの上を両足でグライドし、どちらかの足に体重を移して、カーブへリーンしたまま片足で滑る。判定は、片足のグライドを3秒以上、左右どちらの足でも。つまり、両足で傾きを保てるようになったら、そのまま片足を上げて3秒。公式の基準にあるのは左右両方の足で行うことまでで、反対回りの円を足すのはこのドリルの側の設計です。両足・両回り・片足3秒まで揃ったら卒業です。
突き詰める
CanSkateの課題表には、要求の階段があります。Stage 1の両足グライドも、Stage 2の両足→片足グライドも、課題文は「直線でもカーブでもよい」。カーブが必須になるのは、Stage 3の「カーブ上の両足→片足グライド」が最初です。ここで初めてカーブ、リーン、3秒、左右両足がまとめて要求に入り、しかもその課題は両足のグライドから始まります。米国側にも似た分担があります。Learn to Skate USAの幼児クラスでは、「体のリーンでカーブする」Curvesと同じ級に片足グライドの課題が並びますが、そちらの課題文は「直線で」。カーブは両足とリーンで、片足はまっすぐで。傾きと片足立ちを同時には要求しない組み方が、入門カリキュラムに最初からあります。このドリルが両足なのは、妥協ではなく設計です。
物理の側から見ると、両足と片足に区別はありません。リーンとエッジの深さの記事で使った傾きの釣り合いの式 tanθ=v²/(rg) に、足の本数は出てきません。同じ速さなら、深く傾くほど小さい円。両足で覚えたこの対応は、片足になってもそのまま使えます。
だから次の一歩も決まっています。この式を解説しているFigure Fouettéが勧める氷上の実験はこうです。「安定したフォアアウトサイドエッジに乗り、上体のリーンの量だけをあれこれ変えて、円が大きくなったり小さくなったりするのを『操縦』してみる」。同じ遊びの片足版です。両足で対応が体に入っていれば、片足でもハンドルはもう握れています。
Kunadonicは、この感覚を自転車に例えています。初級者篇では両足の旋回を「自転車でカーブを曲がる時のように、カーブの内側に体を倒すと、ぐいぐいと曲がっていけます」と書き、中級者篇では片足のコンパルソリーを「自転車やバイクが、高速カーブで思いっきり倒し込む」映像に重ねます。両足でぐいぐい、から、片足で倒し込むまで。その間を埋めるのが、円の上での反復です。
このドリルで練習する技術
参考文献
- Skate Canada CanSkate Skills – Descriptions and Performance Standards(クラブ控え)
- Skate Canada CanSkate Badge Chart(クラブ控え)
- Learn to Skate USA 練習課題リスト(Sugar Land Ice Skating Center掲載)
- U.S. Figure Skating Skater Checklist – Skating Skills(会員サイト配布)
- Figure Fouetté, The Fundamental Theorem of Figure Skating
- iCoachSkating 20 Minute Warm-Up Edge Class – Part 1(Kate Charbonneau)
- iCoachSkating Common Mistakes Forward Edges(Joan Orvis)
- Kunadonic フィギュアスケートの滑り方 初級者篇・中級者篇