フォアアウトサイドエッジ

ひと言で言うと

前に滑りながらブレードの小指側の縁に乗り、乗っている足の側へ弧を描く滑り方。8つのエッジの最初の関門です。

正しくやる

スケートの刃は1枚の板に見えますが、氷に触れる縁は2本あります。親指側がインサイドエッジ、小指側がアウトサイドエッジ。前向きに進みながら小指側の縁だけに乗るのがフォアアウトサイドエッジで、右足ならRFO、左足ならLFOと略します。アウトサイドに乗ると、カーブは乗っている足の側へ向かいます。右足なら右回り、左足なら左回りです。

練習の型は各国でほぼ共通です。ホッケーラインのような直線を軸にして、右足と左足で交互に半円を描く。米国連盟のテストでは静止した状態から始めて、半円を4〜6個並べます。日本のバッジテスト初級で最初に課されるのも、このハーフサークル(RFO-LFOの繰返し)です。

軸線(ホッケーライン) 静止から RFO RFO LFO LFO 足を替える
連続半円の軌跡。軸線から出て、RFOは上へ、LFOは下へ半円を描きながら進んでいく

手順はこうです。

  1. 軸線の上に、進みたい向きへ体を向けて静止して立つ
  2. 押す足のブレードで氷を押し出し、アウトサイドエッジに乗る。トウで蹴らない
  3. 滑走足の膝は曲げたまま、頭からブレードまでを一本の線にして円の中心側へ傾ける
  4. 半円の後半でフリーレッグ(浮かせている足)を体の近くを通して前へ。半円を描き終えたら両足を揃えて、反対の足で次の半円へ

チェックには、コーチのJoan Orvisが挙げるフォアエッジの失敗リストがそのまま使えます。裏返せば全部が確認項目になるからです。

  • 直立したまま滑っていないか。Orvisは「多くの子どもはエッジ練習でまっすぐ立っているが、それではエッジに乗れているはずがない」と指摘しています
  • 手が下がっていないか。手は氷面と平行に、掌は下向きに保つ
  • 腕が曲がって畳まれていないか
  • フリーレッグや腕が、体から離れた大回りの軌道で動いていないか

フォアアウトサイドエッジの姿勢。頭からブレードまでを一本の線にして、線ごと円の中心へ傾く
フォアアウトサイドエッジの姿勢。頭からブレードまでを一本の線にして、線ごと円の中心へ傾く

日本語の受験記や愛好家の記録でも、つまずく場所はだいたい同じところに集中しています。まっすぐ進もうとするとブレードがフラット(縁ではなく刃の底)に落ちるので、自分の想定より一段深いカーブを描くつもりで傾くこと。インサイドに倒れたのを上体だけ捻ってアウトに見せかけると、足と上体が逆方向に捻れた形(俗に言う「ぞうきんしぼり」)になること。足を替えるたびに次の足を横に開いて置くワイドステップも、バッジテストの受験記でよく注意される点です。

合格の線引きも文書で決まっています。Skate Canadaの評価ガイド(2020年11月版)では、STAR 1のフォアエッジは、軸線の上でフォアのエッジを最低4本、アウトとインの両方を含めて滑る課題です。プッシュは終始ブレードで行うこと、と明記されています(「トウで蹴らない」はこの裏返しです)。要素の必須要件は「4本中3本がエッジの定義を満たすこと」。STAR 1全体の合否は、この要素を含む6要素のうち5要素がSilver以上で決まります。米国連盟がこの課題に掲げる評価の焦点はひと言、「エッジの質」です。

突き詰める

エッジの傾きは、感覚ではなく力学で決まっています。速度v、円の半径r、重力加速度gとすると、釣り合う傾き角θは tanθ = v²/(rg)。速く滑るほど、また円が小さいほど、深く傾かないと釣り合いません。逆に言えば、同じ速度なら大きい円は浅い傾きで足ります。そして、この式に身長は入りません。背が高くても低くても、同じ速度で同じ円を描くなら傾きは同じです。

氷面 鉛直 体の軸 θ 円の中心へ tan θ = v² / (r g) v:速度 r:円の半径 g:重力加速度 速いほど、円が小さいほど 深く傾いて釣り合う
釣り合いの幾何。傾き角θは速度と円の半径だけで決まり、身長は関係しない

この式を練習の言葉に訳すと、「傾きの量が円の大きさを選ぶ」となります。エッジで曲がるとは、ハンドルを切ることではなく、傾きで半径を指定することです。円の大きさの目安として、米国連盟のサークルエイト(フォアアウトで描く8の字)では、円の大きさをおよそ身長の3倍と定めています。

氷の側でも面白いことが起きています。物理学者のLe BerreとPomeauの計算では、ブレードの下では摩擦熱で氷が融けて厚さ0.2マイクロメートル弱の水の膜ができ、エッジは深さ約21マイクロメートルの細い溝を掘りながら進みます(体重75kg・秒速12mのホッケー滑走を想定した数値)。体を傾けると、この溝の斜面が体重と遠心力の両方を受け止めます。エッジが「氷に噛む」という感覚の正体は、自分で掘った溝に斜めに乗っている状態です。

採点の言葉としても、エッジの明確さは明文化されています。ISUの採点でSkating Skills(スケーティング技術)の評価基準に挙がっているのは「エッジ、ステップ、ターン、動きの明確さ(clarity)とボディコントロール」。アウトに乗ったつもりのフラットは、この基準でそのまま減点側に落ちます。

一方で、細かい指導は資料によって割れています。上体の向きについて、入門者向けの資料には肩を進行方向にスクエアに保てと書くものがある一方、コーチのOrvisは出だしからスケーティング側の肩をリードさせよと教えています。腕も、横に伸ばして氷面と平行に持てという指導と、進行方向へ伸ばせという流儀の両方が見つかりました。このサイトはどちらかを正解として書きません。習っているコーチの指定が最優先です。

習得までの時間は、統計と呼べるデータが見つかりませんでした。大人から始めた愛好家の記録に「半年、練習100時間くらい」という経験談があります。一人の記録にすぎませんが、片足で立つ、フラットで滑る、傾ける、という段階を踏む時間として、実感に近い数字だと思います。

参考文献

  1. 2023-24 U.S. Figure Skating Rulebook(Skating Skillsテストパターン)
  2. ISU Program Components(2024年7月版)
  3. U.S. Figure Skating Basic Skills Program 1-8(2011-12年版)
  4. Skate Canada Skills Assessment Resource Guide(2020年11月版)
  5. Skate Canada STAR Assessments(info.skatecanada.ca)
  6. iCoachSkating Common Mistakes Forward Edges(Joan Orvis)
  7. Le Berre & Pomeau, Theory of ice-skating
  8. Figure Fouetté, The Fundamental Theorem of Figure Skating
  9. Adults Skate Too, Mastering Basic Edges
  10. フィギュア用語解説(バッジテストの内容詳細)
  11. 華蓮「アウトサイドの乗り方練習」