バックインサイドエッジ
ひと言で言うと
後ろ向きに滑りながら、ブレードの親指側の縁に乗るエッジ。4本の基本エッジの最後で、押し出しは最大級の難関と呼ばれます。
正しくやる
バックアウトサイドの次は、後ろ向きのインです。後ろへ進みながら親指側の縁だけに乗るのがバックインサイドエッジで、右足ならRBI、左足ならLBIと略します。カーブの規則はフォアのときと同じ。インに乗ると、カーブは乗っている足と反対の側へ向かいます。
これで基本のエッジは4本目、最後の1本になります。米国連盟の連続エッジの課題は、フォアのアウト、フォアのイン、バックのアウト、バックのインの順で行うこと、順序を入れ替えてはいけないことを課題文に明記しています。この順序は、同連盟が会員向けに配布している現行のチェックリスト(2025年1月作成)でも維持されています。日本のバッジテスト初級も同じ並びで、岐阜県スケート連盟が公開している課題表では「ハーフサークル RBI-LBI」が4番目。4つのハーフサークルの最後です(2017年10月1日施行の内容で、2018-19シーズンまで改定なしと注記されています。現在も同じかは未確認)。米国の入門課程Learn to Skate USAでも、Basic 5のA項目がバックのアウト、B項目がバックのイン。2011-12年版でも、2024年版の受講案内で確認できる範囲でも、大人向けのAdult 5でも、この並びは変わっていません。
練習の型はこれまでと同じ連続半円です。静止から、軸線に沿って4〜6個の半円を左右交互に並べます。
この図をフォアインサイドの記事の図と見比べると、バックアウトのときに見た現象がもう一度起きています。同じ右足の親指側の縁なのに、RFIの弧は軸線の下、RBIの弧は上。進む向きが変わると、弧は軸線の反対側に出ます。傾ける側は同じで、その傾きが決めた円をどちら回りに動くかだけが違う。理屈はバックアウトサイドの記事に書いたとおりです。米国連盟の課題図でも同じことが起きています。インの2つの段は、アウトの2段とは逆に、どちらも軸線の右端から出発して左へ進む形で描かれていて、フォアの段ではRFIが軸線の上、バックの段ではRBIが下。同じ右足のインサイドなのに、弧の出る側が入れ替わっています(あちらは進行方向がこの記事の図と逆なので、上下の見え方も逆になります)。
このエッジが最後に置かれている理由は、乗ってみるとわかります。押し出しからして難しいのです。コーチのJoan Orvisは、バックエッジの解説でバックインサイドエッジへのプッシュを「若いスケーターにとって最大級の難関のひとつ」と呼んでいます(以下、コーチの記述はコーチ向けサイトiCoachSkatingが各動画につけた紹介文からの引用です。動画本体は会員限定)。ただし手順に分解すれば誰にでもできる、とも言っています。その分解は4つ。足を持ち上げる、体重を移す、体重を戻す、その足に乗る。
Moves in the Fieldを専門にするKaren Heng Olsonには、このエッジだけを扱った解説の回があります。彼女がまず教え直すのは、エッジ以前の後ろ向きのストロークです。氷にCの字を描くように押し、足は前に持ち上げる。このCプッシュがこの課題の土台だから、すでに滑れる子にももう一度やらせる。そのうえで、よく出る失敗をひとつ挙げています。押す前に、次の足を氷に下ろしてしまうこと。順番は逆です。足を下ろす前に、押し切る。動かす順番も「バランス、足、腕、頭」と決めていて、腕とフリーフットは体の近くを通し、振り回さないこと。つま先を内側に向ける動きに慣れるためのドリルも紹介されていて、これはこの課題の中でいちばん難しい動作を数多く反復するためのものです。仕上げの前提もはっきりしています。パターンに入る前に、基本のエッジで姿勢とエッジのコントロールを固めること。
合格の線引きは、バックアウトサイドの記事で書いたSkate CanadaのSTAR 2「Backward Edges」がそのまま当てはまります。バックのエッジをアウトとイン両方含めて最低4本、氷の幅を横切る軸線の上で滑り、4本中3本がエッジの定義を満たすこと。アウトとインは、ここでもセットで審査されます。
突き詰める
フォアインサイドの記事で、インは技の入口だと書きました。前向きから後ろ向きへ振り返る技の多くが、インサイドから入る。ではその技はどこへ出てくるのか。ここです。
ISUの規則はモホークをこう定義しています。片方の足からもう一方の足へのターンで、入りと出のカーブは途切れずに続き、足の切り替えはアウトサイドからアウトサイドへ、またはインサイドからインサイドへ。つまりフォアインサイドで入ったモホークは、必ずバックインサイドに出ます。振り返りの前も後も、インサイドの仕事です。Skate CanadaのC Step(モホークの現行名)の課題文もその経路どおりで、FIのC Stepを行ったあと「BIエッジから」反対の足に踏み替えてBOエッジへ、と書かれています。振り返った体を最初に受け止めるのが、このエッジです。
クロスオーバーにも同じ顔で出てきます。前進クロスオーバーでは、外から掛けた足が乗るのはインサイドでした。後進でも構図は変わりません。米国連盟の課題図では、バッククロスオーバーはRBOとLBI、LBOとRBIの組で表記され、前でクロスする足(XF=cross in front)の注記はイン側に付きます。コーチのNick Pernaの解説も同じ組み立てで、内側の足はきれいなアウトサイドエッジに下ろし、外側の足は内側の足から離れる方向へ押す。彼はまた、両足を氷に残したままクロスの形を保つ「アンダーカット」の姿勢を、質の高いバッククロスオーバーを覚えるうえで多くのスケーターがつまずく場所に挙げています。バックで加速するこの動きの片側を、インサイドが受け持っています。
サークルエイトでも役回りはフォアと同じです。米国連盟のバックサークルエイトは、バックアウトで8の字を描いたあと、バックインサイドエッジに押し出して「直前に滑った円を繰り返す」と定められています。BOで描いた円を同じ向きでなぞり直せるのは、反対の足のBIだけ。フォアの2周目をLFIが受け持ったのと同じ幾何が、後ろ向きでもう一度出てきます。
そして踏切です。ジャンプがすべてバックアウトサイドに降りてくる話はバックアウトサイドの記事に書きましたが、上がっていく側にはバックインサイドがいます。ISUのテクニカルパネル・ハンドブック現行版(2025-26)は、フリップの踏切はバックインサイドエッジから、ルッツはバックアウトサイドエッジから、と明記しています。踏切のエッジが明らかに誤っていればテクニカルパネルは「e」、はっきりしなければ「!」の記号でジャッジに伝え、「e」がつくと基礎点が下がります。縁の選び方ひとつが、採点表の記号になる世界です。サルコウも同じ側から跳びます。ISUの規則にサルコウの踏切エッジを定めた明文は見つかりませんでしたが、スケート用品店が運営する大人向けガイドは、サルコウをバックインサイドエッジから踏み切って反対の足のバックアウトサイドに降りるエッジジャンプだと説明しています。カリキュラムの並びもこれと噛み合っていて、日本のバッジテストは初級のエッジ課題の最後にRBI-LBIのハーフサークルを置き、その次の1級でシングルサルコウを課します。米国の2024年版課程でも、Free Skate 2という同じ級の中にBOとBIの連続エッジ、BIスリーターン、そしてサルコウが並んでいます。
級が上がると、このエッジはターンの入口にもなります。Skate CanadaのSTAR 2はバックのスリーターンを4種すべて(RBO、LBO、RBI、LBI)課していて、合格の条件には入りと出のエッジをそれぞれ2秒示すことが入っています。Olson(スリーターン解説の回の名義はKaren Olson)には、BIスリーターンを大人向けに解説した回が2本あり、最初の助言は「まず入口のエッジ、バックインサイドエッジそのものを仕上げること」。なぜそこが難しいかというと、見えない後ろへ、円の内側へ寄りかからなければならないからです。彼女の言い方では「何もないものに寄りかかる」。フリーヒップを上げたまま、滑走側の腰を足と頭に対して一直線に保ち、滑走側の全体でターンを先導する。ブレードの上ではかなり後ろに乗っている感覚になり、これも大人には落ち着かない場所だと言います。恐怖で腰が引けると、体はターンを上から越える代わりに回り込んでしまう。「ターンは回り込むものではない」が彼女の言葉です。続きの回ではさらに踏み込んで、ターンとは直前の動作への反応であり、エッジの解放にすぎない、正しい入りと、膝と足首の上下のタイミングがあればターンは勝手に起きる、とまで言っています。ターンの質は、その手前のバックインサイドエッジの質だということです。

4本の基本エッジのうち、押し出しが最大級の難関と呼ばれる1本が、いちばん最後に置かれています。ただ、その先の課題表を眺めると、この縁の上にあるのはモホークの出口、バッククロスオーバーのクロスする足、サークルエイトの2周目、サルコウとフリップの踏切です。フォアのエッジが出発で、バックアウトが帰着なら、バックインは後ろ向きの世界の発進台。足を下ろす前に押し切る、という地味な約束を守った分だけ、この発進台は強くなります。
参考文献
- 2023-24 U.S. Figure Skating Rulebook(Skating Skillsテストパターン)
- U.S. Figure Skating Basic Skills Program 1-8(2011-12年版)
- Learn to Skate USA 2024 Course Information Guide(Sertich Ice Center配布版)
- Skate Canada Skills Assessment Resource Guide(2020年11月版)
- ISU Judging System Technical Panel Handbook Single Skating(2025-26年版)
- ISU Sports Rules Single & Pair Skating and Ice Dance(2026年6月12日版)
- iCoachSkating Backward Outside and Inside Edges(Joan Orvis)
- {'iCoachSkating Skating Basics': 'Backward Inside Edges(Karen Heng Olson)
- iCoachSkating Backward Inside Three Turns Part 1(Karen Olson)
- iCoachSkating Backward Inside Three Turns Part 2(Karen Olson)
- iCoachSkating How to Ice Skate – Backward Crossovers(Nick Perna)
- Adults Skate Too, The Salchow Jump
- Adults Skate Too, Every Figure Skating Jump Explained
- U.S. Figure Skating Skater Checklist – Skating Skills(会員サイト配布・2025年1月作成)
- 岐阜県スケート連盟「テスト内容」(バッジテスト課題2017〜)