フォアインサイドエッジ

ひと言で言うと

前に滑りながらブレードの親指側の縁に乗り、乗っている足と反対の側へ弧を描く滑り方。つなぐ・振り返る、滑走の仕事の裏方を受け持つエッジです。

正しくやる

フォアアウトサイドエッジの記事で書いたとおり、ブレードが氷に触れる縁は2本あります。親指側の縁だけに乗って前に進むのがフォアインサイドエッジで、右足ならRFI、左足ならLFIと略します。カーブの向きはアウトサイドの逆。インサイドに乗ると、カーブは乗っている足と反対の側へ向かいます。右足なら左回り、左足なら右回りです。ここを逆に覚えると後のターンの理解までねじれるので、最初に体へ入れてしまってください。

練習の型はアウトサイドと同じ連続半円です。米国連盟のテストでは、フォアのアウト、フォアのイン、バックのアウト、バックのインの決められた順で、静止から半円を4〜6個並べます。どちらの足から始めてもよいが、順序は入れ替えてはいけない、と課題文に明記されています。日本のバッジテスト初級も、愛好家の解説ページで確認できる範囲では同じ構成で、1番がRFO-LFO、2番がRFI-LFIのハーフサークル。評価の言葉は「正しい姿勢、正確なエッジで滑る」です(連盟の公式要項はWebでは公開されていません)。米国の入門課程Basic 4でも、A項目がサークル上のFOエッジ、B項目がFIエッジという並びで、アウトを覚えた直後にインを覚えます。この並びは2011-12年版でも現行版でも変わっていません。

軸線(ホッケーライン) 静止から LFI LFI RFI RFI 足を替える
フォアインサイドエッジの連続半円。軌跡はアウトサイドと同じで、乗る足だけが入れ替わる

この図をフォアアウトサイドの記事の図と見比べてみてください。半円の並びはまったく同じで、足のラベルだけが入れ替わっています。軸線の上側の半円を、アウトでは右足で、インでは左足で描く。同じ弧を描く手段が2通りあるという事実は、あとで効いてきます。

手順の骨組みもアウトサイドと共通です。静止から始める。ブレードで押してトウで蹴らない。滑走足の膝は曲げたまま。インで変わるのは傾ける向きだけで、頭からブレードまでを一本の線にして、親指側、つまり円の中心側へ傾けます。フリーレッグは後ろへ伸ばし、半円の後半で体の近くを通して前へ。描き終えたら両足を揃え、反対の足で次の半円に入ります。

チェック項目には、コーチのJoan Orvisの失敗リストがここでもそのまま使えます。彼女の記事はフォアのインサイドとアウトサイド両方を対象にしていて、直立したまま滑る、手が下がる、腕やフリーレッグが体から離れて大回りする、傾きが足りない、力みすぎ、といった失敗は両エッジに共通だからです。「多くの子どもはエッジ練習でまっすぐ立っているが、それでは物理的にエッジに乗れない」という指摘も、インだから免除されることはありません。

後ろから見たフォアインサイドエッジ(左足)。軌跡は親指側へ曲がり、体は一本の線のままカーブの内側へ傾く。フリーレッグは後ろ、氷から離す
後ろから見たフォアインサイドエッジ(左足)。軌跡は親指側へ曲がり、体は一本の線のままカーブの内側へ傾く。フリーレッグは後ろ、氷から離す

合格の線引きも文書で決まっています。Skate Canadaの現行の評価ガイド(2020年11月版)では、STAR 1のフォアエッジは、軸線の上でフォアのエッジを最低4本、アウトとインの両方を含めて滑る課題です。氷の端まで行ったら、反対のエッジの半円で戻ってくる。プッシュは終始ブレードで行うこと、と明記されています。要素の必須要件は「4本中3本がエッジの定義を満たすこと」。STAR 1全体の合否は、この要素を含む6要素のうち5要素がSilver以上で決まります。米国連盟が連続エッジの課題に置く評価の焦点は、アウトのときと同じくひと言「エッジの質」です。

突き詰める

インサイドエッジの本当の顔は、曲がるためのエッジというより「技の入口」です。カリキュラムの並びを眺めると、それがよく見えます。2011-12年版のBasic Skillsでは、Basic 6の最初の項目がFIスリーターン、Basic 7の最初がFIオープンモホークでした。現行のLearn to Skate USAは6級制に再編されていますが、FIオープンモホークは今も、Basic 6を終えて最初に入る級(Pre-Free Skate)の先頭項目です。クロスオーバー2回からモホークへつなぎ、最後は「フォアインサイドエッジへステップ」で締めるコンビネーション課題も同じ級にあります。Skate CanadaのSTAR 1でも、C Step(かつて評価表でモホークと呼ばれていた技の現行名です)の課題文に「フォアインサイドエッジに押し出してFI C Stepを行う」と書かれています。前向きから後ろ向きへ振り返る技の多くが、インサイドを入口にしているわけです。

クロスオーバーの中にも隠れています。米国連盟のリンク一周ストロークの課題図では、コーナーのクロスオーバー部分がLFOとRFIの繰り返しで表記されます。左回りのコーナーで、外側から掛けた右足が乗るのはインサイドエッジ。つまり前進クロスオーバーはアウトの足とインの足の組み合わせでできていて、フォアインサイドはその半分を受け持っています。

極めつきはサークルエイトです。米国連盟のPreliminary 5では、フォアアウトで8の字を描いたあと、「フォアインサイドエッジに押し出し、直前に滑った円を繰り返す」と定められています。RFOで描いた円を同じ向きでなぞり直せるのは、幾何の必然として、反対の足のインサイドであるLFIだけ。円の大きさはおよそ身長の3倍、2つの円は同じ大きさで、評価の焦点は「エッジの質と途切れないフロー」です。

スタート(同じ場所から) 1周目 RFO 右足アウトサイド 2周目 LFI 左足インサイド 実際は同じ円(2周目は見やすさのため内側にずらして描いた) 円の大きさはおよそ「身長の3倍」
サークルエイトの片側の円。1周目はRFO、2周目はLFIで、同じ円を同じ向きになぞる

同じ円をアウトとインの両方で描かせる。この課題設計が語っているのは、FOとFIが鏡像のペアだという事実です。傾きの釣り合いの式(tanθ = v²/(rg))はフォアアウトサイドの記事で紹介しましたが、この式の導出に、ブレードのどちらの縁に乗っているかは出てきません。傾きを決めるのは速度と円の半径だけ。同じ速度で同じ円なら、アウトでもインでも必要な傾きの深さは同じです。変わるのは傾く向きと、それを受け止める縁がどちら側か、それだけです。ついでに書くと、この出典はサークルエイトの「身長の3倍」という円の大きさについて、物理的な根拠は無いとも述べています。規定は規定として実在しますが、数字の由来は別の話のようです。

なお、この出典の導出はエッジの種類をいっさい区別していません(フォアアウトサイドという言葉が出てくるのは、末尾の練習提案の1か所だけです)。それでも、イン特有の条件(たとえば足首の内倒れやすさ)を氷上で測った資料は、今回のリサーチでは見つかりませんでした。

インは地味です。バッジテストでも2番目、練習の型もアウトの続きに見えます。それでも級が上がるほど、C Stepやモホークの入口として、クロスオーバーの片割れとして、サークルエイトの2周目として、顔を出す回数はどんどん増えます。地味な半円を丁寧に描いた分だけ、あとで返ってくる。各国のテストの並びは、そう読める設計になっています。

参考文献

  1. 2023-24 U.S. Figure Skating Rulebook(Skating Skillsテストパターン)
  2. U.S. Figure Skating Basic Skills Program 1-8(2011-12年版)
  3. Skate Canada Skills Assessment Resource Guide(2020年11月版)
  4. Skate Canada STAR Assessments(info.skatecanada.ca)
  5. Learn to Skate USA Basic Skills(公式サイト)
  6. Learn to Skate USA 2024 Course Information Guide(Sertich Ice Center配布版)
  7. iCoachSkating Common Mistakes Forward Edges(Joan Orvis)
  8. フィギュア用語解説(バッジテストの内容詳細)
  9. Figure Fouetté, The Fundamental Theorem of Figure Skating