スウィズル

ひと言で言うと

両足の内側の縁で氷を押し開いて、また閉じる。どちらの足も氷から離さずに進める、いちばん最初の推進技術です。

正しくやる

ストロークは、片足に乗って、もう片方の足で押す技術でした。スウィズルはその手前にあります。押した足を上げません。

かかとを合わせてつま先を外に向け、両足でV字を作る。膝と足首を曲げて氷に圧をかけると、足が外へ開きながら体が前に出ます。開き切ったら、膝が伸びるのに合わせてつま先を寄せて閉じる。氷に残る跡は、左右にひとつずつのふくらみになります。

呼び名はこの跡から来ています。日本語では「ひょうたん滑り」。愛好家サイトのKunadonicいわく「両足の軌跡がひょうたんのような形になることから、そう呼ばれます」。英語圏ではswizzle。Skate Canadaはsculling(スカリング)で、誰でも編集できるWikibooksの入門ページも同じ語です。Special Olympicsの指導ガイドは課題名を「Swizzle (fishies)」、お魚と併記。シンガポールの公的スポーツ機関のページは「フォアスウィズル、別名scissors(はさみ)」と書きます。Kunadonicのたとえは平泳ぎです。「足の動かし方は、平泳ぎの足のように、両足一緒の動作になります」。

1サイクル(上から見たところ) 進行方向は上。青が左足、桃色が右足。どちらも氷から離れない ① V字で沈む かかとを合わせる ② 内エッジで開く ここで前に出る ③ 開き切る 幅は資料で割れる ④ 伸びて閉じる つま先を引き寄せる バックは鏡像。つま先を合わせて立ち、閉じるときはかかとを引き寄せる 続けたときの軌跡 進む向きは右。CanSkateもLearn to Skate USAも、連続6回以上を課題にする 左足 右足 開く 閉じる 開くところで膝が沈み、閉じるところで伸びる(down / up / down / up)
スウィズル1サイクル。V字から開いて閉じるまでと、そのあいだの膝の上下

タイミングはCanSkateの課題文にあります。フォアのスカリングは「膝と足首を曲げ、かかとを合わせる。つま先は外を向き、下向きに圧がかかることで前進が始まり、足が外へ動いていく」。閉じる側は「前進の勢いを保ったまま、膝と足首が上がりながら、つま先を引き寄せてスカルを閉じる」。そして「『down/up/down/up』のリズムに重点を置くこと」。沈んで開き、伸びながら閉じる。膝と足首の使い方で書いた曲げ伸ばしが、ここでは推進そのものになります。さきほどのシンガポールのページ(署名はありません)は、そこをはっきり書きます。「スウィズル中の勢いは、膝を曲げて伸ばすことから来る」。

バックは鏡像です。CanSkateのバックのスカリングは、フォアとほぼ同じ文で書かれています。違うのは足のどこを使うかだけ。合わせるのがかかとではなくつま先、外を向くのがつま先ではなくかかと、閉じるときに引き寄せるのもつま先ではなくかかと。幅の上限も本数もリズムの表記も、前後の向きを表す語を除けばフォアと同じ文です。

開き切ったところを正面から。両足とも氷についたまま、膝は曲げたまま、上体は起こしたまま
開き切ったところを正面から。両足とも氷についたまま、膝は曲げたまま、上体は起こしたまま

幅は資料で割れます。CanSkateは「スカルのふくらみは、最大でもスケーターの肩幅よりやや広い程度」。Special Olympicsは「腰幅よりやや広くなるまで」。肩幅と腰幅ではだいぶ違います。

どこまで開くか 左端が閉じた状態。バーの右端がその資料の上限 腰幅 肩幅 Special Olympics 腰幅よりやや広く CanSkate スカリング 肩幅よりやや広い CanSkate 円の上の課題 肩幅を超えない 上限の基準は割れているが、「広げすぎは失敗」では揃っている。 Special Olympicsの失敗表の直し方は「腰幅に戻させる」
足を開く幅の上限。肩幅を基準にするか腰幅を基準にするかで、資料の指定が違う

広げすぎを戒める点では揃っています。Special Olympicsの失敗表は「足を開きすぎている → 腰幅に戻させる」。Wikibooksもバック滑走の項で「多くのスケーターは不安になると脚を広げてしまうが、その姿勢からはきちんとストロークできない」。Kunadonicが戒めるのは幅ではなく閉じ遅れで、「そのまま広げていくと、足が広がって大変な事になります」と書いて、すぐVの字に戻せと続けます。

本数の目安は団体ごとに。CanSkateは6回以上連続。Learn to Skate USAのBasic 1は6〜8回。Special Olympicsは10フィート(約3メートル)以上を5回で。幼児コース(Snowplow Sam)の2級は2〜3回から。

級表を縦に読むと、置かれ方が見えます。Learn to Skate USAのBasic 1に片足グライドはありません。マーチ、両足グライド、ディップ、フォアスウィズル、バックウィグルなどが並び、片足グライドは次のBasic 2です。片足に乗れる前に、自分で進む方法を先に教えている。Kunadonicも同じ理由をバックについて書いています。後ろ向き歩行から始める人もいるが、「このやり方ですと、いきなり片足立ちになる為、まず練習になりません」。

刻み方もコースで違います。幼児コース(3〜6歳)は3つの級に分けて前後を刻み、成人コース(16歳以上)はAdult 1に「フォアスウィズル4〜6回」と「前1回・後ろ1回(ロッキングホース)」をいきなり並べ、バックの4〜6回も次のAdult 2で済ませる。幼児が3級かけるところを、大人は2級で通します。

つまずく場所も書かれています。シンガポールのページは「初心者はたいてい、つま先を戻して閉じるところで苦労する」。処方は膝です。Special Olympicsの失敗表は、バッジ1から12まで12個ぜんぶが同じ1行で始まります。「トウピックが当たる → もっと膝を曲げさせる」。

突き詰める

ここまで公式資料を並べましたが、スウィズルは、調べたかぎりどの規則にも定義されていません。

ISUの規則書(2026年6月1日版・96ページ)を全文検索すると、swizzleもscullもpumpもthrustも0件です。オープンストローク、クロスストローク、モホーク、ツイズルの定義は並んでいるのに、スウィズルの項目はない。米国連盟の用語集(5ページ)にもありません。米国連盟の「スケーティングスキル」テスト(旧ムーブズ・イン・ザ・フィールド)の課題を並べた15ページのチェックリストにも、Skate Canadaの64ページの評価ガイドにも出てきません。入門の級表には必ずあるのに、その先の規則と評価にはありません。

競技規則は逆を向いています。ISUのシングルのフリースケーティングの規定は「両足滑走を最小限にして構成される」。アイスダンスのパターンダンスの評価基準は「両足滑走は、要求される場合を除いて避けなければならない」。最初に教わるやり方が、上に行くと減らせと書かれる。

では消えるのか。消えません。半分になって残ります。

等号はLearn to Skate USAのホッケーコースの級表にあります。Hockey 1の課題は「フォアスウィズル/ダブルCカット」。Hockey 3は「フォアCカット(1/2スウィズルパンプ)、円の上で」。スウィズルはCカット2つぶんで、半分にすると片足のCカットになる。級表は両方の名前を並べて書いていて、同じ動きを別の名前で呼んでいる、と読めます。

半分にした形は円の上に置かれます。フィギュアのBasic 3は「円の上でのフォア・ハーフスウィズル・パンプを6〜8回連続」。次のBasic 4に「フォアクロスオーバー」が来ます。CanSkateは、バックについてはこの接続を明文で書きます。サークルスラストとパンプの課題文の最後に、「どちらもバッククロスカットへの前段と見なされるため、コーチはどちらか一方、または両方を教えることを選べる」。

半分にすると、円の上に残る 桃色が押している足、青が乗っている足。上から見たところ、進む向きは右 スウィズル 直線・両足 両方が押す 両足とも氷の上で左右へ開く ハーフ スウィズル 円・片足が押す =Cカット 円の線 内側の足は円に乗ったまま 外へ押して戻る クロス オーバー 円・足が交差 下になった足が外へ押す 越えて円の内側へ
両足のスウィズルを半分に割ると円の上の片足の押しになり、その先がクロスオーバーになる

ここでスラストとパンプという二つのやり方が出てきます。CanSkateは区別します。スラストは押したあと「足を氷から離す」。パンプは「両足を氷につけたまま押しを行い、繰り返す」。どちらを教えるかはコーチが選ぶ、と書かれています。

ただし円の上のフォアは団体で違います。CanSkateにあるのはスラストだけで、しかも刃の側面で後方へ約30度押し出し、片足のグライドを1秒保ってから両足に戻る。Learn to Skate USAのハーフスウィズル・パンプは、両足を氷につけたまま押しを繰り返す。足を上げるかどうかだけでなく、押す向きと、片足で乗る時間の有無が分かれています。

前進と後進が同じ動きなのかも割れています。課題文を鏡像で書いているのはCanSkateです。Learn to Skate USAとSpecial Olympicsは前を教えてから後ろ、という順序を置くだけで、同じ動きだとは書いていません。そしてKunadonicは、「前進の練習でもひょうたん滑りができますが、エッジの使い方が全く違うため、前進とは別物と認識した方がいいかも知れません」と書きます。

Kunadonicが本命として扱うのはバックのほうです。「重心の位置や、上半身の姿勢、足の使い方、ひざの曲げ方など、バック滑走の全ての基本が詰まっています」。押す場所の書き方も独特です。「ひざを曲げたら、足を広げながらつま先で氷を押します」。ただし刃の前後の話で、シンガポールのページも「体重は刃の後ろから中央へ、そして前へ」と書くので対立しません。割れるのは左右。シンガポールは「フラットではなくインサイドエッジ」、Special Olympicsの最初の段階(その場で3回)は「刃をフラットにしたまま」。ただし後者は移動しない導入の指示なので、同じ段階の比較でもありません。

同じ言葉が別のものを指す場面もあります。Skate Canadaの「スカリング」は両足のスウィズルです。Kunadonicの「スカリング」は、両足を氷につけたまま片足だけで押します。アウトエッジに乗る練習です。「左足を固定し、アウト側に体重を乗せます。右足は蹴り足」。同じ語が、両足で押す技術と片足で押す技術を指しています。

Kunadonicは、このスカリングをクロスフットの一歩手前に置きます。「先程のスカリングを、左足だけで滑るようにし、右足を左足の前に持っていけば、クロスの踏み込みになります」。CanSkateがバックのパンプに書いた「クロスカットへの前段」と、同じ図式です。国も資料の格も違うのに、たどり着く先だけが揃っている。

バックのひょうたんは「あまりにも初歩的なので、リンクでこれを練習している人はまずいません」とKunadonicは書きます。同じ段落の少し後には「上手な人のバックひょうたんは、北島康介の平泳ぎのようにスムーズで速いです」とあります。ほとんど誰も練習しない技術に、上手い下手ははっきり出る。スウィズルはその最初のひとつだと思います。

参考文献

  1. Skate Canada CanSkate Element Descriptions and Requirements(2021年4月版)
  2. Learn to Skate USA Course Information Guide(Sertich Ice Center配布・2024年度版としてファイル名に記載/文書内に版表記なし)
  3. Special Olympics Figure Skating Coaching Guide – Teaching Figure Skating Skills(2006年12月)
  4. ISU Sports Rules Single & Pair Skating and Ice Dance(2026年6月1日版)
  5. U.S. Figure Skating Glossary of Figure Skating Terms
  6. U.S. Figure Skating Skater Checklist – Skating Skills(会員サイト配布)
  7. Skate Canada Skills Assessment Resource Guide(2020年11月版)
  8. ActiveSG Circle(Sport Singapore)How to perform a forward swizzle?
  9. Wikibooks Recreational Ice Figure Skating/Basic Skills
  10. Kunadonic フィギュアスケートの滑り方 初級者篇