エッジチェンジとフラット

ひと言で言うと

片足に乗ったまま、カーブの向きを途中で裏返すのがエッジチェンジ。どちらのエッジにも乗らず、まっすぐ滑っている状態がフラットです。

正しくやる

エッジの記事はここまで5本、「どの縁に、どちら向きで、どれだけ傾いて乗るか」を書いてきました。今回は、乗り替える話です。

エッジチェンジ(チェンジエッジとも呼びます)とフラットには、同じ条文に並んで書かれた公式の定義があります。ISUの現行規則(2026年6月1日版)のアイスダンス編Rule 704は、ステップの中身を4つに分類しています。エッジ、エッジチェンジ、ターン、そしてフラット。エッジチェンジの定義は「片足のトレース(氷に残る跡)が、あるカーブとエッジから、別のカーブとエッジへ変わるもの」。フラットの定義は「片足の、まっすぐな2本線のトレース」です。氷に触れる縁は1枚の刃に2本あるので(フォアアウトサイドの記事の最初に書いたことです)、どちらの縁にも傾けなければ、跡は2本線になります。そして条文は、フラットにだけ括弧書きの注意を添えています。「通常は容認されない」。

エッジチェンジの軌跡(RFO→RFIの例) 軸線 チェンジ(軸線の上で一瞬) RFO(入りのエッジ・2秒以上) RFI(出のエッジ・2秒以上) 進行方向
エッジチェンジの軌跡。軸線の上でカーブの向きが裏返り、跡はS字を描いて進んでいく

やり方は、級の課題文がいちばん具体的です。Skate CanadaのSTAR 4「フォアのチェンジエッジ」。軸線の上でエッジを替えながら進む課題で、前進の4種(RFO→RFI、LFO→LFI、LFI→LFO、RFI→RFO)をすべて行い、チェンジの入りと出のエッジをそれぞれ2秒以上保つことが定義に入っています。手順はこうです。軸線が近づいたら、フリーフット(浮いている足)を滑走足の前に置いて準備する。軸線の上で、リーンを新しいローブへ移しながら、フリーフットを滑走足の後ろへ動かす。新しいエッジは最初のエッジと対称になるように描き、再び軸線と交わるまで保つ。リーンとエッジの深さの記事で「傾きの量が円の大きさを選ぶ」と書きましたが、エッジチェンジはその傾きを、片足の上で反対側へ持ち替える練習です。

チェンジの前後でフリーフットは前から後ろへ動く。軸線でリーンを移す間に、浮いた足が滑走足を追い越していく
チェンジの前後でフリーフットは前から後ろへ動く。軸線でリーンを移す間に、浮いた足が滑走足を追い越していく

同じ課題文には、やってはいけない形も明文で並んでいます。後戻り(バックトラッキング)をしないこと。「S字チェンジ」をしないこと。そして「チェンジの入りと出にはっきりしたエッジがあり、チェンジが斜めや直線にならないようにすること」。切り替えの瞬間を曖昧に流すと、2つの弧の間に、エッジと呼べない区間が挟まります。規則が3つの言い方で囲い込んでいるのは、どれもこの形です。評価ガイドのエラー欄には「ぐらつき(ウォブル)、またはフラット」という項目もあります。狙った場所で1回だけ起こせばエッジチェンジ、勝手に何度も起きればウォブル。同じエッジの切り替えでも、意図が抜けると欠点の名前に変わります。

良いチェンジ:軸線の一点で、一瞬で切り替わる 軸線 切り替えの一点 悪いチェンジ:弧と弧の間に直線(フラット)が挟まる 軸線 フラットの区間(跡は2本線) 進行方向
良いチェンジは軸線の一点で切り替わる。倒し替えが長引くと、弧と弧の間に直線(フラット)が挟まる

コーチの教え方も、切り替えの一点に集中しています。Karen Olsonは米国連盟の最上位テストにあるSustained Edge Stepの解説で、まずバッククロスオーバーからエッジチェンジだけを取り出したドリルを繰り返させます。バックのエッジチェンジのことだけを考えられるようにするためです。次の段階で「チェンジの後の保持」を足し、腰と体幹でエッジの真上に乗ること、フリーフットの置き場所は「後ろ、トレースの真上」であることを細かく確認していきます。ドリルの中でスケーターは、エッジを大げさなくらい誇張して描いています。切り替えて終わりではなく、切り替えた先のエッジに乗り直すところまでがエッジチェンジだ、という教え方だと読めます。

突き詰める

リーンとエッジの深さの記事で書いたとおり、同じ速度なら、カーブの大きさは傾きの量が決めます。そしてカーブの向きを決めるのは、傾きの向きです。ということは、カーブを裏返すにはリーンを裏返すしかありません。右に傾いていた体が左に傾くまでの間に、体は必ず一瞬、どちらにも傾いていない直立を通ります。直立はフラット。つまりエッジチェンジとは、フラットを避ける技術ではなく、フラットを狙った場所で、できるだけ短く通過する技術です。片足グライドの記事で、まっすぐ滑るとは「左右どちらにも倒れていない一点」に立ち続けることだと書きました。エッジチェンジは、その一点を通り抜けます。課題文の「斜めや直線にならないこと」は、通過が長引いて跡に残った形を、規則の側から見た言い方です。

フラットには速度の下限も絡みます。傾きの釣り合いの式を解説しているFigure Fouettéの言葉を借りると、「フィギュア(規定図形)を遅く滑りすぎると、フラットのところで2本線を引いてしまう。きれいなエッジを保つには最低速度がある」。チェンジの前後でフラットが長引くとき、原因は倒し替えの遅さとは限りません。単に、スピードが足りないこともあります。

ではフラットは悪なのか。規則の書きぶりは、実は二面的です。禁止の側の代表は、米国連盟のスケーティング・スキルズ評価規定(Rule 5032)とISUのパターンダンス規則(Rule 708)に、一字一句同じ形で書かれている一文。「氷面を広く使うことを、フラットや浅いエッジの使用によって達成してはならない」。別々の団体の別々の文書が同じ文を持っているくらい、この抜け道は古典的だということです。一方で、同じISU規則書には、両足のブレードをフラットに保ったまま直線を滑る「スリップステップ」というステップが正式に定義されています。米国連盟の最初の級のスパイラル課題には「フラットでもよい(may be on flats)」という明文まであります。脚を上げて4秒保つことが主眼で、エッジはまだ問わない、という設計です。日本語圏の扱いも割れていて、用語解説のブログが「フラットエッジは悪いスケーティングとされる」と書く一方、愛好家サイトKunadonicはフラットの直進滑走を車のギアの「ニュートラル」に例えて、すべての滑走の基本姿勢に置きます。どちらも本当で、違うのは文脈です。直線を滑る道具として選んだフラットは正当で、エッジに乗っているつもりのフラットが欠点。条文の「通常は」の中身は、これだと考えています。

エッジチェンジのほうは、級が上がると別の技へ育っていきます。Skate Canadaは保持型から入ります。STAR 4の「2秒保持」の先、STAR 6〜7のChange Threesではスリーターンとスリーターンを繋ぐ部品になり、課題文の注意書きは「チェンジエッジとターンの間じゅう、リズミカルな膝と足首の動きを見せること」。STAR 9〜10になると、ロッカー(STAR 9)やカウンター(STAR 10)の課題文に「2連続のエッジチェンジ(スラローム)」として埋め込まれます。米国連盟は順序が逆で、3つ目の級(プレ・ブロンズ)にあるのはいきなり「パワー・チェンジエッジ・プル」。チェック項目は、リズミカルな膝の動き、スピードを保つか上げること、そして「パワーが生まれる音が聞こえること」です。エッジを替えるたびに加速する、パワープルの入り口です(パワープルそのものは、別の記事で書きます)。最上位のゴールド級では、保持するスイングチェンジエッジ(課題表の略記はsustained sw CE)がステップに戻ってきて、チェック項目の筆頭は「ローブの深さ、弧の鋭さ、体のリーンを伴うエッジの習得」。評価規定の用語クイックネスの定義にも「ターン、エッジチェンジ、トランジションの、正確で速く切れのある実行」とあります。2秒の保持から始まって、最後は速さと音の領域に届く技術です。

アイスダンスでは、エッジチェンジは拍で管理されています。パターンダンスの規則には、次のステップへのプッシュを準備するためのエッジチェンジは「各ステップの最後の½拍以内」でだけ許される、という条文があります。切り替えの位置が半拍単位で指定される世界が、この技術の上限側にあります。

エッジチェンジを連ねた模様には、名前もついています。サーペンタイン(蛇行)。ISUのステップシークエンス分類では、リンクの端から端まで「3つ、または2つの大きなカーブ」で進む曲線型がサーペンタインで、2カーブの場合は条文自身が「S字」と呼んでいます。ゴールド級のサーペンタイン・ステップシークエンスの確認項目は「深いエッジ、締まったローブ」。カーブの中身の質を5本かけて書いてきて、今回は継ぎ目の質の話でした。Kunadonicには、慣れればチェンジエッジやクロッシングで、バックのまま人を避けられるという一節があります。混んだリンクで、ぶつからずに進路を変える。派手さはありませんが、この技術が効いている瞬間として、いちばん実感しやすい場面だと思います。

参考文献

  1. ISU Sports Rules Single & Pair Skating and Ice Dance(2026年6月1日版)
  2. Skate Canada Skills Assessment Resource Guide(2020年11月版)
  3. U.S. Figure Skating Skater Checklist – Skating Skills(会員サイト配布)
  4. Figure Fouetté, The Fundamental Theorem of Figure Skating
  5. iCoachSkating Sustained Edge Step – USFS Senior Moves in the Field(Karen Olson)
  6. フィギュアスケート用語メモ「ブレード/エッジとは」
  7. Kunadonic フィギュアスケートの滑り方 中級者篇