ストローク

ひと言で言うと

片足に乗って滑り、もう片方の刃の縁で氷を押す。押して、伸ばして、乗り移る。この繰り返しが、速さを自分で作る基本です。

正しくやる

エッジの記事6本は「どの縁に、どちら向きで、どれだけ傾いて乗るか」の話でした。ここからは押す話です。

押す縁は決まっています。米国連盟の用語集にあるストロークの定義は「速度を得るために使う流れるような動きで、スケーターは一方の刃のインサイドエッジからもう一方の刃のインサイドエッジへ、交互に押し出す」。押す縁をインサイドと名指ししています。同じ用語集はトウピックを「主にジャンプに使う」歯と定義していて、押しの用途には触れていません。

1回の押し(上から見たところ) 進行方向は上。青が滑走足、白抜きが押す足 ① そろえて曲げる ② 刃の側面で押す ③ 伸ばし切る ④ 横を通して前へ 押した足は次の押しまで後ろに保たれる(ISU オープンストロークの定義) 続けたときの軌跡 進む向きは右。米国連盟の最初の級は、この形で長辺を4〜8回 ●は押し終わりと乗り移りの点 左足で滑る 右足で滑る 押すたびに軸線をまたぐので、跡は浅い弧の連なりになる
フォアのストローク1サイクル。押した足は氷を離れて後ろに残り、滑走足の横を通って前へ戻る

入口の順序は、Learn to Skate USAの級表が手順書になっています。Basic 1の課題は「氷の上をフォアにマーチする」。ただ歩きます。Basic 2で「スクーター押し(左右)」。キックボードの動きです。Basic 3でようやく「刃の正しい使い方を見せる初歩のフォアストローク」が来ます。歩く、蹴る、押す。3段が別々の級に置かれています。

Skate CanadaのCanSkateは、Stage 1から「押し/グライドの連続(左右左右左右)」を課題にします。課題文には但し書きが二つ。「押しと押しの間に両足グライドが入ることは、この段階では容認され、また予期される」。そして「刃の側面での押しは、教えられ、奨励されなければならない」。片足に乗り切れなくてもいい、でも押す場所は最初から刃の側面だ、という設計です。

押しの中身は、コーチの言葉のほうが具体的です。以下はiCoachSkatingの解説文によります(動画は会員限定)。ナショナルコーチのChris Conteは、刃の安定した中央で押しながらまっすぐな脚まで伸ばし切り、最後につま先を伸ばして加速の仕上げを取る、と教えています。パンチが対象を「突き抜けて」加速するのと同じだ、と。スケーティングスキルとムーブズを専門にするKaren Olsonも、脚と足と臀筋を使う良い押しを最初のパターンで教えるべきだと言い、「伸ばし切れない子が驚くほど多い」と付け加えます。

押し切った脚と、途中で止まった脚。膝が伸び切って足首からつま先まで一直線になっているかどうか
押し切った脚と、途中で止まった脚。膝が伸び切って足首からつま先まで一直線になっているかどうか

曲げるのは押す前です。指導歴35年以上のNatalya Khazovaコーチは「腰を滑走足の上に保ち、押す前に足首と膝を曲げること」と書いています。CanSkateのクロスカットの課題文も「bend, push(曲げて、押す)」。膝と足首の使い方の記事で書いた「沈んでから伸びる」が、ここでは推進力そのものに変わります。

押した足の行き先は、ISUの用語定義にあります。アイスダンス編のオープンストロークの定義は「滑走足のすぐ横から、前でも後ろでも交差させずに始めるステップ」。但し書きが続きます。「フォアのエッジでは、フリーレッグは滑走足へ戻る前に後ろに保たれる。すべてのバックのエッジでは、戻る前に前に保たれる」。押した足は押した方向に置いたまま、というわけです。

同じ課題の押しの要件は、級で締まる 下が入門級。上へ行くほど許される割合が減る Skate Canada(CanSkate) Stage 1 側面の押しを教え、奨励する Stage 2 刃での押しが50%以上 Stage 5 刃での押しは必須 Stage 6(ペリメーター) 必須かつ均等で一貫 米国連盟(スケーティングスキル) プレ・プレリミナリー 浅いエッジ・フラット混じりも可 プレリミナリー 踏むのではなく押していること プレ・ブロンズ 確かなエッジの押し ブロンズ トウ押しをしていないこと どちらも入門級では混じり物を許し、上の級で純度を求める ただしCanSkateの要件は課題ごとに決まる。Stage 1・2・5は同じ押し/ グライドの連続、Stage 6は別課題。出典は2021年4月版と会員配布の一覧
同じ課題の押しの要件は、級が進むほど締まる。CanSkateは割合で管理し、米国連盟はフラット混じりの許容からトウ押し禁止へ変わる

本数にも目安があります。米国連盟の最初の級(プレ・プレリミナリー)の1項目めが「フォア・ペリメーター・ストローキング」で、パターンは「4〜8回のまっすぐなストローク、両端はクロスオーバー、リンク1面、両方向に1周」。Olsonの目安は「たいていの子には長辺で6ストローク、エンドで3クロスオーバー。力のある子なら4ストロークと3クロスオーバー」。この練習パターンは上の級でも繰り返し使うそうです。

うまくいかないときの名前も、評価表にあります。米国連盟のブロンズ級のチェック項目は、フォアの「トウ押しをしていないこと(No toe pushing)」とバックの「トウでひっかいていないこと(No toe scratching)」。フォアとバックで語が違うのは、症状が違うからでしょう。Amy Brolsmaはバックのトウピック多用を「キティスクラッチ(子猫のひっかき)」と呼び、エッジとトウピックの音を聞かせて自分で直させます。プレリミナリー級には「踏むのではなく押していること(Stroked not stepped)」という項目も。足を置き換えているだけの状態にも名前がついています。

押しの純度は級で締まります。CanSkateはStage 2で「刃での押しが50%以上」という割合の要件を置き、Stage 5で「刃での押しは必須。パワーが生まれている証拠を示すこと」に変わります。Stage 6のペリメーター課題では「必須であり、かつ均等で一貫していること」。ただし要件は課題ごとに決まっていて、級の番号だけで一律に締まるわけではありません。米国連盟は最初の級で「浅いエッジやフラット混じりでも可」と許したうえで、3つ上のブロンズ級でトウ押しを禁じます。どちらも最初から完璧を求めてはいません。

突き詰める

ここから先は、指導が割れている話です。

押す方向が、まず割れています。共同編集の入門書Wikibooksは、初めて氷に乗る日の説明で「押しは真後ろに向けるのではなく、やや横に向けるべき」と書き、バックの節でも「片脚で外へ、横へ押し出す」と説明します。ところが用品店Adults Skate Tooの入門ガイドは、バック滑走の「よくある間違い」の4番目が「横に押すこと」。「真後ろではなく横に押し出してしまう。直し方は、体の下へまっすぐ後ろに押すこと。そのほうがパワーもコントロールも出る」。同じバックのストロークで、片方が「横へ」、もう片方が「横に押すのは間違い」と言う。

公式の課題文が方向を書くのは、円の上の課題だけです。直線のストロークにはどの級も方向の指定がなく、ISUの規則には「刃の側面」という言葉すら出てきません(ISUが指定するのは押す縁です)。ところが円に入ると、角度まで出てきます。CanSkate Stage 3のフォアのサークルスラストは「刃の側面を使い、外側の足に圧をかけて、氷を離れる前にスケーターの後方へ約30度の角度で伸びる押しを行う」。Stage 4のバックのサークルスラストは「外へ、そして前へ押す」、フォアのクロスカットは「円の外側へ押す」。押す向きが円の幾何で決まる場面でだけ、公式は方向を口にします。

日本語の資料は、方向と感覚を分けて書きます。日本スケート連盟のスピードスケート育成ハンドブックは競技の特徴として「側方に脚を伸ばして氷をプッシュする」と書く一方、ドリルの注意では「しっかりと自分の真下にキックすること」(種目はスピードスケートです)。愛好家サイトKunadonicはクロスオーバーの説明で「足は常に、円周の外側後方に蹴っていく」と書いたあと、2段落おいて「後方に蹴るというより、斜め前方に歩いていくような感覚と考えたほうが、正しいです」と付け加えます。実際の方向と、本人が持つべき感覚は別だ、という書き方です。方向の話が資料ごとにずれて見えるのは、この二つが混ざるからかもしれません。

押す方向は、資料によって違う 上から見たところ。進行方向は上。青が滑走足 進む向き 滑走足 ① 横へ ② 後方へ約30度 ③ 体の下へ真後ろ ① Wikibooks(共同編集・初日の説明)/日本スケート連盟のスピード資料 ② CanSkate Stage 3 フォアのサークルスラスト(唯一、角度を書いている) ③ Adults Skate Too「横に押すのは、よくある間違い」(用品店) 公式が方向を書くのは円の上の課題だけ。直線のストロークには指定がない
押す方向は資料によって真横・斜め後ろ・真後ろに割れている。公式が角度を書いているのは円の上の課題だけ

トウピックを最後に通すかどうかでも割れます。しかも同じサイトの中で。iCoachSkatingの紹介文によれば、Chris Conteは理想の押しを「刃で押し、それから最後にいちばん下のトウピックを通して押し抜くように転がる」ものだと説明します。一方、Amy Brolsmaのドリル紹介では「刃全体を使わせたいが、トウピックを通して押させたくはない」とあります。片方は最後にピックまで通せ、もう片方は通すな。どちらもサイト側の要約なので断定は避けますが、「刃で押し切ってからピックに達する」のと「ピックで押し始める」のでは順番が逆です。争点はそこかもしれません。

フリーレッグを戻すときに間を置くかは、サイト自身が割れていると書いています。サイトの解説文にこうあります。「伸ばした位置からグライドへ向かうフリーレッグの動きは、コーチの意見が分かれるように見える領域のひとつで、足がそろうところで一拍置くように教える人もいる」。Olson自身は間を置かない側で、理由は「フローとパワー、自然な勢いを削ぐから」。滑走足のすぐ横を止まらずに通過させます。

ここまで割れていて、全員が一致している点がひとつあります。押すのは刃の縁で、トウピックではない。Skate Canadaの評価規準表(2020年11月版)は、これを意外な場所に置いています。「トウ押し、または非効率な押し」が並ぶのはパワーの欄ではなく、正確性(Accuracy)の欠点欄です。パワーの欄にあるのは「遅い滑走」「勢いやフローの喪失」「膝と足首の非効率な使い方」。トウで蹴るのは力が足りない結果ではなく、技術そのものの間違いという扱いです。

ストロークがひとつの技でないことも、規則から見えます。ISUのアイスダンス編は、オープンストロークとは別にクロスストロークを定義します。「推力またはパワーは、これからフリーフットになる足のアウトサイドエッジから得られる」。米国連盟の用語集がインサイドからインサイドへと定義したのと、押す縁が逆です。

この技術は卒業しません。Learn to Skate USAの成人コースは全6級で、最終級の課題2つがフォアとバックのストローク。米国連盟のテストも、成人ゴールド級の1・2項目めが「ストローキング(フォア/バック・パワーサークル)」。最初の級の課題名が、最後の級にも出てきます。

競技の現場でも、ストロークは試合前に最初にやる動きです。世界選手権やオリンピックのコーチPasquale Camerlengoによれば、ウォームアップとしてのストロークは「速く行くことだけが目的ではない。足首、大腿四頭筋、脚、膝を温めることだ」。そのために「できるだけ低く保て」と指示します。押して伸ばして乗る、それだけの動きを、上に行くほど丁寧にやるようになる技術だと思います。

参考文献

  1. U.S. Figure Skating Glossary of Figure Skating Terms
  2. Skate Canada CanSkate Element Descriptions and Requirements(2021年4月版)
  3. U.S. Figure Skating Skater Checklist – Skating Skills(会員サイト配布)
  4. Skate Canada Skills Assessment Resource Guide(2020年11月版)
  5. Learn to Skate USA Course Information Guide(Sertich Ice Center配布版)
  6. ISU Sports Rules Single & Pair Skating and Ice Dance(2026年6月1日版)
  7. 公益財団法人日本スケート連盟 スピードスケート育成ハンドブック
  8. iCoachSkating Tips on Forward Stroking(Chris Conte)
  9. iCoachSkating Warm-Up Stroking Drills(Amy Brolsma)
  10. iCoachSkating Forward Perimeter Stroking – Pre-Preliminary Moves Pattern(Karen Olson)
  11. iCoachSkating Figure Skating Stroking and Edge Drills – Russian Stroking(Pasquale Camerlengo)
  12. styleskating Skating skills 1. Stroking.(Natalya Khazova)
  13. Wikibooks Recreational Ice Figure Skating/Basic Skills
  14. Adults Skate Too Backward Skating for Beginners
  15. Kunadonic フィギュアスケートの滑り方 初級者篇